労務管理の見直しによる経営改善

1. Fクリニックの概要

 ・ 院長: 女性 42歳

 ・ 標榜科目: 整形外科、リュウマチ科

 ・ 所在地: 東京都郊外のテナントビル1階


 Fクリニックは、最寄り駅からやや離れているものの、住宅地に囲まれ緑の多い環境のなか周辺には保育園や小・中学校があり、比較的人口の多い立地条件にあります。 専用駐車場はクリニックの目の前に近隣クリニックと比べて多めのスペースを確保されています。また院内は完全バリアフリーとし、診療所が交通量の多い道路に接していることを考慮して入り口の自動ドアの手動ボタンを高い位置に設定することにより、子供の飛び出し事故を防ぐなど、工夫をこらしています。

 他方、医院広告はバス停前であるためバスの社内広告を中心に、

 1.電柱看板

 2.駅構内看板

 3.入口の看板を設置

 4.ホームページを開設しそれぞれ自院のコンセプトに合ったロゴマークとQRコードを盛り込むこと

 により他院との差別化を図りました。

2. 相談事項と問題点

 院長は、当初近隣のクリニックや知り合いの先生の意見を参考にしながら診療時間や給与を決めていました。社会保険などもきちんと加入しており、職員への期待と労務トラブル防ぎたい思いから労働環境はしっかり整備したつもりでした。しかし、実際は、わずか1年で開業当初のスタッフのほとんどが退職してしまいました。原因について院長に特に思い当たる節はなく、しばらく様子を見ていたのですが、院内の雰囲気はあまり良くなく、たびたび接遇に関して患者さんからクレームを受けることがありました。そのうち、当初順調に増え続けていた患者さんがある時期を境に徐々に減っていったのです。スタッフに直接注意・指導するなど考えられる対策をいろいろ講じてみたのですが、どれも効果が出ているように思えず、院内のムードは沈滞したままです。

 

3. コンサルティング

 職員が日々の業務の中でどのような不満をいだいているのか、その不満は改善可能な問題なのかを調べるため、まず、書面によるアンケート調査を実施ました。面接方式も検討しましたが、院長との人間関係が良好とは言えず正直に話してくれないことが予想されたため面接方式は断念しました。アンケートは(1)匿名にすること(2)記載内容によって不利益に扱わないこと、を職員に説明したうえで本音を記入してもらうようお願いし実施しました。

 スタッフから寄せられた回答は下記のようなものでした。

  ● 頑張っているのに評価してもらえない

  ● 有給が取りづらい

  ● 昇給額の決め方が不明確・不公平

  ● 常勤になりたいのになかなかなれない

  ● 院長には話しかけづらい雰囲気があり、思ったことがなかなか言えない

  ● 特定のスタッフが不真面目で仕事が非常にやりづらい


 院長にとっては、想定外の回答ばかりでしたが、このような不満が根底にあったことに気付かされ、初めてスタッフの本音に触れた気がしました。

4. 改善アクション

 アンケート結果を検証すると、主に「労働条件に関すること」と「職場環境に関すること」の2点に分類することができます。労働条件についてはクリニック独自のルールが存在していたが不明確であり、職場環境については職員の意見が取り入れられづらい状況にあったようです。
 そこで、改善策を検討した結果、以下を実践することにしました。

 (1)就業規則等の作成

 就業規則は常時10人以上の職員を雇うと作成義務が生じますがFクリニックではそこまでの職員がいなかったため就業規則を作成しておりませんでした。しかし労働時間ひとつとっても曖昧な状況にあり、お互いにはっきりしないと支障があることから、職場ルールを明確にわかりやすくするため就業規則を作成し、基本的な労働条件を明確にしました。
 また、給与規定を制定し、職位や経験年次ごとの基本的な待遇の基準を作成するとともに昇給等の判定基準を作り、賞与と昇給の時期には「どのような点が評価されているのか」「どの点が不足しているのか」を個別面談でなるべく客観的に伝えることとしました。

 (2)院内ミーティングの実施

 朝礼を週に一度行っていただけで、院長が一方的に事務的な伝達を行うのみでした。これを改善し、昼休み後の時間と診療終了後の時間をそれぞれ週に一度短時間ミーティングに充て、院内で生じたことを何でも報告することとしました。パートスタッフも多いことからこれが意外に有効なコミュニケーションとして働き、院内の風通しがよくなりました。

 (3)患者満足度向上のプロジェクトチーム結成

 選ばれるクリニックとなるためにはどうしたらよいか、さらに医療人である以前に人としてどのように患者さんに接すれば満足度を向上させることができるのか、を考え実践するプロジェクトチームを常勤のスタッフ中心に数名で立ち上げ、その中心に職員同士で自由に意見を交わせる場を設けました。この場は職員のみの参加とし、院長は報告を受けて承認をするのみとしました。患者満足度向上のための工夫や改善提案は意外にも多く寄せられ、改めて現場スタッフの秘めた思いに気付かされました。自分たちが提案した改善策であるので、その実現のため、スタッフは院長が驚くほど積極的に行動を起こしました。

 (4)院外コミュニケーションの充実

 職員のための慰労会など、院外での食事会やイベントを実施したところ、院内では知り得ない本音や素顔がわかり、スタッフ同士のコミュニケーションが生まれ、院長との距離間も縮まってきました。

 (5)意見箱の設置

 当初院長に物申しづらい雰囲気があったため、口頭での意見を集める代わりに文書で意見が言える場を設けました。ただし、いわゆる“チクリ箱”のような存在にならないよう、あくまで冷静に客観的に受け止めることをきちんと伝えました。
 数ヵ月後に実施した同様のアンケートでも職員からの不満が減るとともに院長の努力を評価・感謝するコメントも現れ、院内は明らかに雰囲気が変わってきたことが実感できるようになってきたのです。院内が明るくなり、活気が出てきたことで、1年を待たずして1日の患者数が100人を超える日も出てくるようになりました。

5. まとめ

 職場風土の改革にはなかなか着手しづらいものです。長年かけて形成されたものであればある程、保守的な考えが先行してしまい思い切った改革にためらいが生じてしまうことがあります。そのため、職員のくすぶった不満を見逃しがちになってしまいます。
 「人事は永遠の問題」ともいわれますが、明確な課題がある場合はもちろん、経営に停滞感がある場合には労務管理の観点から解決策を見出してみることも必要になります。
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