医療モール内の連携強化

1. Eクリニックの概要

 ・院長: 女性 48歳

 ・標榜科目: 眼科  

 ・所在地:東京都郊外のクリニックモールの2階


 Eクリニックは東京郊外のJR駅から車で10分の距離にある医療モール内の眼科診療所です。この医療モールは5階建てビルの2階にあり内科、整形外科、小児科、精神科、皮膚科も開設されており調剤薬局は1階部分で開局しています。
 所在地周辺は戸建住宅とマンションが混在している住宅地であり、年齢層は若年層が急増しているものの中高年層並びに後期高齢者世代も多いことから、白内障患者を多く見込める環境にあり、自院の特徴のひとつに「白内障の日帰り手術」と考えていた院長にとって開業地を決める大きな要因となりました。

 また、オペ室を備えるに必要となる約50坪の面積が確保できたことと、医療モールとして15台の駐車場が確保されていることもこの物件での開業を決断させました。
近年、空きスペースが目立つ新規医療モールを目にしますが、当モールは竣工前に全てのテナントが決まっており竣工後2ヶ月の間に全診療所が開設されました。これは、診療所側にとって好条件の賃貸物件であったこと、診療圏調査が好結果であったことに加え、新規開業医師にとって医療モールが持つ高い集患能力への期待が根強いことをうかがわせました。


2. 相談事項と問題点

 Eクリニックの開業当初の患者数は1日あたり20名前後、また白内障手術は月に5例程で推移していましたが、以降、外来患者数は30名を越える日はあるものの、当初から体制を整えていた手術数は開業当初からあまり増加していません。

 Eクリニックにとって「日帰り手術」は医業収入を大きく左右するものであり、手術数・その確保は重要なテーマですが、まずは基本となる外来患者数をいかに増加されるかが当面の課題といえます。院長はモール形態に集患効果を期待するものの、先ず自院が患者さんから選ばれる診療所でなくてはならないとの思いから、開業当初から分りやすい丁寧な説明を心がけていました。

 患者さんがモール内の医療機関を選択するのは、各々の医療機関に対する安心感に加え、ひとつの建屋に出向けば複数の診療所を受診できるという利便性といえますが、ここで重要なことは各医療機関の連携体制をいかに築くかの点にあります。
 逆に、連携を実感できない医療モールは単なる医療機関の集合体でしかなく、患者さん、医療機関双方の期待に応えられない箱ものになる危険性を抱えることになります。

 新患が増えず対策に頭を悩ましていた院長はふと、“モール内の連携”について思い至り、その点で不安を抱いた院長は隣接するT内科医院を初めて訪ね、自身の思いを伝えると共に、T院長の考えをうかがうことにしました。


3. コンサルティング

 同じモール内のTクリニックの経営状況も順調とは言えず、T院長も頭を悩ませていました。しかし両院長の共通の認識は、まず診療所同士が連携を深め、その上で患者さんが抱くモールへの期待に応えることが全体の増患に繋がるのではないかというものでした。

 コンサルティングは、次の4項目から取り掛かりました。

 1. 患者に関する調査・分析と対策立案(個人情報保護に留意) (来院動機、患者住所、年齢、性別、再来率 など)

 2. 患者満足度調査の実施

 3. 医師や職員の意識調査

 4. 宣伝広告の見直し


 その結果、医療モールでありながら、各クリニックの医師や職員に一体感がなく、モールとしてのシナジー効果が出ていないことが分かりました。

4. 改善アクション

 「糖尿病セミナー(内科・眼科)」など共催可能な診療科での無料セミナーを開催することにしました。同様に調剤薬局の協力の下、「医療用医薬品の服薬について」や「医療用医薬品と食品の相互作用」などについてのセミナーを実施することにしました。た、日々の診療においても専門医における定期検査を推奨するなど、医療そのものにおける連携を推進するようにしました。

 共催セミナーはまず眼科(E院長)と内科(T院長)とで「糖尿病セミナー」が開催されました。患者さんとそのご家族で12名もの参加があり盛会でした。セミナー終了後、参加者の声を聞いてみると、「症状は出ていないが関連が良く分った」、「生活上の注意を励行したい」、「定期検査を受ける」など高い評価と効果を得ることができました。また、疾患にはよるものの複数科の専門医(科)が存在するモールへの期待が高まったことも大きな成果といえます。その後も他の医療機関とのセミナーが共催されていますが、各診療所と調剤薬局はポスターの貼付や口頭での案内など極めて協力的な体制が作り上げられています。

 2ヵ月後に結果が出た“患者動態調査”の内容は、直近の町丁別人口密度と患者さんの住所をリンクされたものであり極めて説得力のあるものでした。この調査結果を踏まえた定例の話合いでは、認知度アップと利便性のアピールを目的として駅構内に共同の看板を新設することになりました。

 他に電柱広告の設置場所と本数の見直しをすると共にモール並びに各診療所のホームページに携帯電話版機能を持たせるなど、広告の効果がきちんと生かせるよう改善がなされました。

 Eクリニックの患者さんは徐々に増えて平均40名ほどまでになっており、その傾向は各診療所も同様の結果が出てきました。また問診票に新たに付加えられた“来院理由“には、家族や友人の紹介の他、「医療モールが便利だから」「○○先生に紹介されて」の言葉が目立つようになり、「患者さんから選ばれる医療モールを構築し、増患につなげること」という当初の目的が達成されつつある状況にあります。


5. まとめ

 医療モールは個々の診療所の集合体ですが、同じフロアにあるなど、一体化した経営形態を強みとして生かせるメリットが本来はあるはずです。ところが良好な連携ができず、むしろお互いの力を消し合うかのような関係すら見受けられることもあり、クリニックのポテンシャルを発揮できない形態になってしまうリスクもあるのが現実です。

 そしてそれに対し、一般には開発に係ったコンサルタント会社や調剤薬局などがマネージャーとしてその調整役を担うことが多いのですが、本事例は経験不足と力不足が対応を遅らせてしまったケースでもあります。乱立気味の医療モールではありますが、入居する各施設が運命共同体であることを認識し、患者さんの期待に応えることが存続発展の重要なポイントといえます。

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